BCP策定の最初の一歩 何から始める?リスク特定・評価の具体的な進め方
BCP策定の最初の一歩:何から始める?リスク特定・評価の具体的な進め方
事業継続計画(BCP)の策定を始めるにあたり、「何から着手すべきか」という疑問をお持ちの担当者の方も多いのではないでしょうか。BCP策定は多岐にわたる作業を含みますが、その中でも最も重要な、そして最初に取り組むべきステップが「リスクの特定と評価」です。
このステップを正確に行うことが、その後のBCPの実効性を大きく左右します。想定されるリスクが明確にならなければ、対策も的外れなものになりかねません。ここでは、BCP策定の最初の一歩として、リスクを特定し評価するための具体的な進め方について解説します。
なぜリスク特定・評価がBCP策定の最初に行うべきなのか
BCPの目的は、地震や風水害といった自然災害、火災、システム障害、感染症の流行、そして近年の社会情勢から特に重要視されているサプライチェーンの途絶など、様々な緊急事態が発生した場合でも、事業を早期に復旧させ、重要な機能を維持することにあります。
この目的を達成するためには、「どのような緊急事態が起こりうるのか」「その緊急事態が自社にどのような影響を与えるのか」を事前に把握しておく必要があります。リスク特定・評価は、まさにこの「起こりうる緊急事態」と「その影響」を明らかにするプロセスです。
このプロセスを経ることで、以下の点が明確になります。
- 自社が直面しうる具体的なリスクの種類
- 各リスクが発生した場合に、事業のどの部分が、どの程度の影響を受けるか
- 対策を講じるべきリスクの優先順位
これらの情報が、次に進む「重要事業の特定」や「目標復旧時間・レベルの設定」、そして具体的な「対策の検討・実施」の根拠となります。土台となるリスク分析が不十分であれば、その上に築かれるBCPは脆いものになってしまいます。
リスク特定・評価の具体的な進め方
リスク特定・評価は、以下のステップで進めることが一般的です。
ステップ1:対象とする事業活動の洗い出し
まずは、自社の事業活動全体を整理します。どのような業務があり、それぞれがどのような目的で、どのような手順で行われているのかを把握します。部署ごと、製品・サービスごと、顧客層ごとなど、様々な視点から洗い出すことが有効です。
また、自社だけでなく、事業を取り巻く環境、例えば主要な取引先、物流網、社会インフラなども考慮に入れる必要があります。
ステップ2:想定されるリスクシナリオの収集
洗い出した事業活動や環境に対して、どのような緊急事態が発生しうるかをリストアップします。考えられるリスクは多岐にわたりますが、以下のようなカテゴリから検討を開始すると体系的に漏れなく洗い出しやすくなります。
- 自然災害: 地震、津波、台風、洪水、噴火、積雪など
- 設備・システム関連の障害: 火災、停電、通信障害、システムダウン、サイバー攻撃など
- 人的要因: 従業員の大量欠勤(感染症など)、ストライキ、テロ、風評被害など
- サプライチェーン関連: 主要取引先の被災・倒産、原材料供給の停止、輸送ルートの遮断など
- 法規制・経済的要因: 法改正、取引先の信用不安、市場の急変など
これらのリスクが、ステップ1で洗い出した自社の事業活動にどのような影響を与える可能性があるのか、具体的なシナリオとして想像してみることが重要です。例えば、「大地震により本社ビルが使用不能になった場合」「主要な原材料メーカーの工場が火災で稼働停止した場合」などです。
ステップ3:リスクの評価
収集したリスクシナリオについて、それぞれが発生した場合の「影響度」と「発生可能性」の二つの軸で評価を行います。
- 影響度(Impact): そのリスクが発生した場合に、事業活動にどの程度深刻な影響が出るか。例えば、売上減少、操業停止期間、復旧にかかるコスト、顧客離れ、ブランドイメージの低下などが考えられます。評価は定性的(軽微、中程度、甚大など)または定量的に行います。
- 発生可能性(Likelihood): そのリスクがどのくらいの頻度で発生しうるか。過去の事例、地域の特性、業界の動向などを参考に評価します。こちらも定性的(非常に低い、低い、中程度、高い、非常に高いなど)または定量的に評価します。
ステップ4:リスクの優先順位付け
評価した影響度と発生可能性を組み合わせて、リスクの優先順位を決定します。一般的には、縦軸に影響度、横軸に発生可能性をとった「リスクマトリクス」を用いて整理します。
| | 発生可能性:低い | 発生可能性:中程度 | 発生可能性:高い | | :-------- | :--------------- | :----------------- | :--------------- | | 影響度:甚大 | 優先度:中 | 優先度:高 | 優先度:最優先 | | 影響度:中程度 | 優先度:低 | 優先度:中 | 優先度:高 | | 影響度:軽微 | 優先度:非常に低い | 優先度:低 | 優先度:中 |
このマトリクスにより、特に「影響度が甚大かつ発生可能性が高い」リスクが、最も優先して対策を講じるべき対象となります。一方で、「影響度が軽微かつ発生可能性が低い」リスクは、現時点での対策優先度は低いと判断できます。
サプライチェーンリスクの特定・評価の注意点
中小企業にとって、サプライチェーンリスクは特に見えにくく、しかし一度顕在化すると事業に致命的な影響を与えかねない重要なリスクです。サプライチェーンリスクの特定・評価を行う際には、以下の点に注意が必要です。
- 自社のサプライチェーン全体像の把握: 原材料・部品の調達先、製造・加工委託先、物流会社、販売先など、自社の事業に関わる外部の関係者を可能な限り洗い出します。特に、単一層(一次取引先)だけでなく、二次、三次の取引先に重要な企業が含まれていないか、可能な範囲で把握を試みます。
- 主要取引先の状況把握: 特に重要度が高い取引先(代替が難しい、供給停止の影響が大きいなど)については、BCP策定状況、災害対策、生産拠点の分散状況などを確認することが望ましいです。ただし、中小企業が詳細な情報を得ることは難しい場合もあるため、最低限、その取引先が過去に事業中断を経験していないか、事業継続への意識はどの程度かなどを推測できる範囲で把握します。
- 依存度の高い取引先の特定: 特定の取引先への依存度が高くないかを確認します。特定の取引先からの供給が停止した場合の代替手段があるか、代替にかかる時間やコストはどの程度かなどを評価します。
- 物流ルートのリスク評価: 製品や原材料の輸送ルートに、自然災害で遮断されやすい場所がないか、特定の港や空港に集中していないかなどを検討します。
サプライチェーンリスクは自社単独ではコントロールできない部分が多いですが、リスクを特定し、その影響度や発生可能性を評価することで、代替手段の確保、在庫の積み増し、取引先の分散といった具体的な対策の必要性を判断できます。
まとめ:最初の一歩としてのリスク特定・評価
BCP策定の最初の一歩であるリスク特定・評価は、自社が直面しうる様々な脅威を明確にし、それらが発生した場合の影響を把握するための基礎となる重要なプロセスです。このプロセスを経て、対策を講じるべきリスクの優先順位が明確になります。
リスク特定・評価は一度行えば完了というものではなく、事業環境の変化や新たなリスクの出現に合わせて、定期的に見直し、更新していく必要があります。
今回解説した具体的な進め方を参考に、まずは自社の事業活動と、それを脅かす可能性のあるリスクの洗い出しから着手してみてください。この第一歩が、リスクに強い経営体制を築くための確かな基盤となります。